ご無沙汰しております。3月から東京に出稼ぎに来ています。週末は京都。
21日朝は、ものすごく久しぶりに鎌倉にでかけて畠山直哉を見て、キャラウェイのカレーでたらふくになって外苑前へ向かう。今更ながら湘南新宿ラインに感銘を受けてしまう。いやわかってます、そういう路線が数年前に新設されたってことは。でも大船から渋谷(の先)まで一本でいけるってすごいことだと思う。知られざる線を無理矢理使ったんだろうけど、他にもそういう隠れた路線てのは残ってるんだろうか。あるんだろうな。鎌倉に行くと脳が10年ぐらいタイムスリップする。やや感傷的になった。いや教育実習に通ったりしたからなのだが、坂倉美術館がちと傷んでみえたせいも、あるかもしれない。今日はお休みの日だからなのか、10:30頃に東海道線では自殺者がでており、13:00になっても電車が遅れていた。
で、藤村龍至展だ。オープニングで見たときの第一印象はこんな感じ。
「やりたいことは全部、とはいわないまでもほぼすべてできてる。でも、やりたいことしか、できていないんじゃないか」
コンセプトは簡潔。表現は明快。展覧会をひとことで表すとそうなる。これはわかっていた。でもこの感想は、二回目を見てあっさり打ち砕かれました。
そもそもプリズミックの展示空間は、たぶん展示しにくいタイプの空間だ。低い天井、薄い壁、赤い床(それはいいか)、いびつなプラン。隣の部屋で鳴り響く電話。よわっちい空間なのに、展示が空間に負けてしまうことも多々ありそうだ。
そんな場所で藤村くんの展示は、大きく二つの質の空間を備えていた。一つは窓から窓までの長手方向の空間。入り口からみて前方に左右に伸びており、左から、UTSUWA、K-PROJECTスタディ模型、K-PROJECT展示模型と展示台を三つ並べていた。UTSUWAがいちばん低く、スタディ模型群は腰の位置。展示模型は目線の高さに置かれていた。展示模型は断面が異常に作り込まれており、床の下、壁の中まで再現した緻密かつ執拗な再現力を感じることができる。二つ目の空間の質は、空間構成としてのポイントとなるものだった。それぞれの展示台の前方と後方に、長手方向に横たわった模型空間を三つに輪切りするような空間が設定されている。そこには模型のひとつひとつを解説した画像を、カレンダーのように配置したプレゼンを見ることができる。これで模型と壁の間を視線が往復する、動きのある展示空間が生まれていた。
最大のポイントは、壁のプレゼンペーパーだ。だってさ、それがコメント付きなんだよ!
ただのキャプションじゃない。コメント、もっとはっきりいえば、画面の外から藤村くんが唐突に語りかける「吹き出し」が書いてある。具体的にいうと、「スタディ模型-4」ではなく、「おそるおそる突起を出してみる」なのだ。UTSUWAのうねうねが決定されていく過程が、物語として語られていくわけだ。たぶん本人は「説明できないことはしません」という決意のもとに設計をしているわけだ。だからどの設計物をとっても、彼がストーリーとして再現できない設計は行われない。将棋で、指し終わったあとに手順を一手目から検討し合う「感想戦」ってあるじゃないですか。あれができない設計はしないわけですね。というか、ひとつひとつの「筆使い」に客観的にコメントをつけられるのが、彼の才能なのではないかと。で、これがきわめて愉快。コメントのセンスに脱帽だった。もう、思い切り笑えたポイントがあった。まさか藤村くんの展覧会で笑いをとられることになるとは夢にも思わなかった。いいなあ。あれを見にもう一度行っても良いぐらいだ。
いちばんよかったのは、DMのイメージを決定する「藤村のデスクトップを再現したイメージ画像」のスタディ。素材をばらまき、小物のストーリーを整え、臨場感ではなくビジュアルイメージとしての手の角度が決定されていく様子が面白い。ああいうのをほんとうのイメージ画像というのだ。それが貼られた壁には、ほかにも「イメージが決定されていく(実現されていく)プロセス」がいくつか展示されていた。「設計のプロセス/プロセスの設計」というテーマはちゃんと表現されていた。
でもなあ。不満がないわけでもない。とにかく展示のコンセプトを明瞭に提示した点で、とても胸のすくさわやかな印象が残ります。だけど、ちょっと素直すぎやしませんか? ダミーのボリュームを模型の周りに配置して、それぞれのスタディ模型を都市の中に息づかせてみたり、プレゼンペーパーのコピーを過剰に貼り込んだ一帯をつくるなり、思考の過程でたどりついた最終形じたいを疑うような、そういう情報の「検索空間」があってもよかったんじゃないかなと。
あとたぶん時計回りの動線を考えていたんだと思いますが、打ち合わせ台(プリズミックギャラリーの宿命的な仕様)に荷物を置いたぼくは、逆時計回りに回ってしまった。だからなにって感じですが、ギャラリー空間の左から回ってくる模型の質と、右から回ってくるプレゼンペーパーの質が真ん中でぶつかって、ちょっと戸惑いました。まあこれは個人的な感覚なので大したことじゃないですね。
とまあ、やりたいことはやって、しかもそこからうっかり逸脱した(ほんとにうっかり、という感じだ)面白さが展示されている。これは一般論だが、まっとうなものの中にかいま見えるズレは、どんなときでも面白いものだし、そういうハズシがない物事、人物はつまらない。ただ、今回のズレは、「えーそこがズレてんの?!」と、ズレの位置じたいがズレていて面白く、しかも、ごくまっとうな展示が真横にあるわけだから、ちょっと動揺してしまう種類の面白さなわけです。たぶん藤村くんには、彼じしんぜんぜん気づいていない才能が隠れているのではないか。まったく味わい深い。いいもの見せてもらいました。ありがとう。
yamasaki